今日も来ない、きみを待ってる。
私はカフェを出て、駅の方へと走り出す。

麻倉さん、私のこと覚えてなかった。
あんなにカフェに行くか行かないか迷って、行くことに決めたのに。
こんなことなら行かなきゃよかった。

私は走るのをやめて、ゆっくりと歩きはじめる。
目は潤みはじめて、今にも泣いてしまいそうになる。

今泣いたら目立っちゃう。
駅の御手洗いで涙を止めてから帰ろう。

私は再び走ろうとすると、後ろから鞄を引っ張られた。

『るいちゃん』

私はどきりとする。
この声はもしかして…

『麻倉さん…』

振り向くと、荒い呼吸をした麻倉さんの姿があった。

『るいちゃん足速いね。俺こんなに体力なかったっけって驚いたよ』

まさか、私を追いかけて走ってきてくれたの?

『どうして…』

『るいちゃんが泣きそうな顔してたから』

私の名前、覚えてくれてたんだ。
てっきり忘れてるのかと思ってた…

安心して気が緩んだせいで、我慢していた涙が一気に溢れだした。
ぼろぼろと目から雫がこぼれていく。

『わっ!るいちゃんどうしたの!?』

泣き始めた私を見て、麻倉さんは驚いた顔をしていた。

『麻倉さんがっ…覚えてくれてないのかなって思って…悲しくなって…』

溢れだす正直な気持ちを、私は麻倉さんに打ち明けていた。
泣き始めたこと自体が迷惑をかけているはずなのに、こんなことを言ってさらに困らせてしまっているのではないか。
今ならそう思えるけれど、この時は何も考えられなかった。
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