アンドロイド♂との不思議な同居生活
 ようやく仕事が片付いた。時計の針はすでに21時を回っている。
「よう!鈴木、お前も今終わりか?」
声をかけてきたのは同期の高橋だ。こいつは俺とは違って仕事はできるし、上司からの信頼も厚く、見た目も女子が好きそうなジャニーズ系のイケメンだ。しかも、かなり良い奴ときたもんだから文句のつけようがない。とても同期だとは思えない。こいつを見てると"天は二物を与えず"ということが嘘だというのがよく分かる。俺には二物どころか一物もない。泣けてくる。量産機はどう足掻いてもエリート機には勝てないのだ。それが宿命。それが現実。
「あぁ、今終わったとこだ。そっちも今終わりか?」
「まぁな。今日中にやってしまいたいことがあってな」
「そうか・・・」
「なんだよ、暗い顔して。どうせまた佐藤部長にでも怒られたんだろ?」
「まぁ、そんなとこだ」
「気にすんなよ。これから仕事で挽回すりゃいいじゃねぇか。ほら!暗い顔してないでさ!今日は呑みに行こうぜ!奢ってやるからさ」
「そうだな。ありがとう、高橋」
 俺は高橋と一緒に会社の近くにある居酒屋へと呑みに行った。店内は仕事終わりのサラリーマンでごった返している。俺と高橋はカウンター席に座った。
「とりあえず、ビールでいいよな?」
「あぁ、そうだな」
「すみませ~ん。生中2つ!」
「はい!かしこまりました!」
店員が忙しそうに返事をする。高橋は通勤鞄からタバコを出すと、その中から1本取り出し、ライターで火をつけ、美味しそうに吸い始めた。
「すまん。俺にも1本くれないか?」
「それは別にいいけど・・・お前、タバコやめたんじゃなかったのか?」
「吸いたい気分なんだよ。今日は」
俺は高橋からタバコを1本もらうと、火をつけ、ニコチンを摂取した。久しぶりのタバコに少しむせそうになる。溜め息と一緒に煙を吐き出す。
「なんだよなんだよ、そのしけた面は!酒がまずくなるじゃねぇか」
「すまん。今日は、なんていうか・・・色々と、無理だ」
「元気だせって!佐藤部長が言ったことなんて気にすんなよ。ああいう言い方しかできない人なんだよ、あの人は」
「それにしたって、もっと言い方ってもんがあるだろ」
思わず口に出てしまった。自然と、吐き出すように口から出た。
「なぁ、高橋。お前はさ、生きてて、楽しいか?」
「なんだよ、突然」
「俺はさ・・・つまんねぇよ。辛いことばっかりじゃねぇか、人生ってさ。毎日毎日、仕事仕事でさ・・・その仕事も上手くいかないことばっかりだし、怒られてばっかだしさ、プライベートでも何の楽しみもないし・・・俺、もう自分が何の為に生きてんのか分かんなくなったよ」
今まで我慢してきたものを次々と吐き出す。ずっと誰かに聞いてほしかったのかもしれない。高橋が俺を慰めるように、静かに語りかけてくる。
「生きてる意味なんて俺にも分かんねぇよ。でもさ、人間って、その意味を探す為に今、必死になって生きてんじゃねぇの?俺も"人生ってマジクソゲーだわ"って思うこともあるぜ?辛いこともあるしさ。でもさ、人生ってさ、生きてさえいればきっと"あぁ、生きててマジ良かったわ"って思える瞬間ってのがきっとあんだよ。"悪いことが続けば、その後にはきっと良いこともある"って、うちの田舎のじっちゃんもよく言ってたぜ?最終的にはプラスマイナス0になるようにうまいことできてんだよ、人生ってさ」
俺は男だが、この時、俺は高橋に本気で惚れそうになった。俺が女だったら確実に高橋に一目惚れしているところだ。
「なぁ、そんな暗いことばっかりじゃなくてさ、なんかこう・・・ほら!楽しいこととか考えようぜ!」
「なんだよ、楽しいことって」
「お前は行きたいとことかないのか?」
高橋からの突然の質問に、俺は少しの間、頭の中で答えを模索した。
「海、かな」
「海いいじゃん!水着ギャルに癒されようぜ!」
「水着ギャル・・・たしかにいいよな」
「な?楽しいこと考えてると、気分も少し明るくなれんだろ?」
「お前ってさ・・・ほんと、良い奴、だよな」
「なんだよ、今頃気づいたのかよ。こう見えて割りと良い奴なんだぜ、俺」
俺はいつの間にか自然と笑っていた。高橋もそんな俺を見て、笑っていた。
「よし!今日はとことんお前の愚痴を聞いてやる!なんでも話すがいい!!さぁ、話したまえ!俺にぶちまけろ!」
―本当に、こいつには敵わない
そう、思った。タバコはいつの間にか短くなり、灰が灰皿の上にぽとりとこぼれ落ちた―。
< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop