オトナの恋は強引です!
開店時間を10分ほど過ぎてから荒木さんがやって来た。
今日はスーツ姿だ。顔が濃く、背も高くてガタイが良い。
胸が厚くて、がっしりしている。
とてもパティシエには見えない。
でも、荒木さんは繊細な魔法の手を持っている。

テーブル席に案内しようとしたら、
カウンターに座って、ドラゴンに向き合う。
「こんばんは。今日はテストに来たんだ。」と笑う。
「初めまして。片桐です。妻がお世話になっています。」とドラゴンは笑顔を見せる。
「ふうん。こんな感じか。」と荒木さんはドラゴンを見て、
「サクラさんは努力家ですね。どのお菓子も合格点だ。」と笑う。
「じゃあ、来る必要なかったんじゃないの?」と急にドラゴンは好戦的な態度だ。

「まあね。サクラさん。ケーキ出して。後、ビールと前菜を頼もうかな。」
と荒木さんがくすんと笑う。

私はふたりの顔を代わる代わる見つめてから、ケーキを取りに行く。
なんだか妙な感じだ。

ケーキを1種類ずつお皿に並べ、持って行くと、
荒木さんはうなずき、慎重に口に入れる。
私の顔を見て、微笑み、
「僕がアドバイスしたことは、上手く直せてるね。
どれも合格点かな。
この店でお客にだせるよ。」
と笑ってくれたので、嬉しくなって微笑むと、
「その無防備な笑顔は曲者だな。
男に向かってあんまりしないほうがいい。」と私を不機嫌な顔で見る。

私はポカンとする。
何を言ってるの?

ドラゴンがビールと前菜を持って来て、
「あんたの教室はやめさせておく。」とジョッキをドンとテーブルにおく。
私は慌てて、
「来週のタルトタタンは?」と勝手にやめさせられても困る。と私はドラゴンの顔をみる。

「その方が賢明だ。」と荒木さんはビールを飲みながら笑ったけど、

「タルト・タタン、作れるようになりたい。」とふたりの顔を見て言うと、
「まあ、もう1週間くらいなら俺の理性も持つよ。」と荒木さんは私の顔を見る。
「ひとの妻に手ェ出すなよ。」とドラゴンが荒木さんを睨んでいる。
「出さないように、ちゃんと辞めてもらおうと思ってさ。
俺はあそこを辞める訳にはいかないからね。
サクラさん、そんなにたくさんの種類のお菓子はこの店に必要ないよ。
ケーキ屋じゃあないいんだから…。
タルト・タタンで卒業って事にして。」と私に笑いかける。

そ、そうなの?
荒木さんって、私が好きになりそうだった?って事?





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