真面目で冷淡な彼が豹変するとき
「どうしたの?風邪でも引いた?」
教室に入るなり、栞が心配して声をかけてくれる。
余計な詮索をされたくない私は、風邪で声が出ないふりをして、頷くだけで何も言わないようにした。
栞は少し訝しげな表情を浮かべていたけど、「あんまり無理しないんだよ」って気を遣ってくれて。
もしかしたら薄々気付いていたのかもしれないけど、栞は優しいからそれ以上は何も聞かないでくれた。
授業中も、なるべく中邑くんのことを思い出さないようにして、ひたすらに黒板に書かれたものをノートに書き込む。
先生が話す下らないことも全てノートに書いたりして、少しでも気が緩まないようにしてた。
だって、ふっとした時に思い出しちゃうから。
中邑くんの顔。
あの子に見せたあの笑顔。
それを思い出しちゃうと、涙が出そうになるから。
昼休みになり、いつものように栞とお昼ご飯を食べようと、お弁当を持って栞の座る机まで向かう。
その時、クラスメートのひとりに呼ばれた。
「征矢さん、呼んでるよ」
そう言われて、教室の入口に目を向ける。
ドクン、と大きく胸が鳴った。