真面目で冷淡な彼が豹変するとき
――そこには、中邑くん。


物凄く怒った表情で、私を見る瞳がとても冷たい。


嫌な緊張が私を襲う。



「あ、中邑君!わざわざ二年の教室に来るなんて、よっぽどのことなんじゃない?南、早く行ってきな!」


中邑くんに気付いた栞は私の背中を叩いて、中邑くんのところに行くように促す。



……逃げたい。

だけど、逃げられない。



足が動かなくてその場に留まっていると、教室の入口で待っていた中邑くんがずかずかと中へと入ってきた。

クラスメイトの目が一斉に中邑くんに集まる。


そして、


「いつまで待たせる気ですか?いいから来てください」


そう言って、私の腕を引っ張って教室を出ていく。


教室の中から、驚きと悲鳴のような声が響いた。


だけど、中邑くんは全く気にせずに私の腕を掴んだまま、廊下を歩く。


私もまた、そんな声なんて気にする余裕もなくて。


そんなことよりも、今の状況が分からずに混乱している。



「ちょ、ちょっと中邑くん!!離して!」



そう中邑くんに声を掛けても、何も言ってくれなかった。


私の腕を掴む力は緩むことはなく、ただ引っ張られるままにある場所へと連れていかれた。
< 19 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop