真面目で冷淡な彼が豹変するとき
中邑篤志(なかむらあつし)高校一年生。

校内のテストのみならず、県内、全国模試でも上位10番以内に名前があり、この学校でT大現役合格に期待のかかる人物であると、周りから一目置かれている男。


成績優秀、加えて眉目秀麗。

艶やかなサラッとした黒髪に、すっと通った鼻筋。

黒縁眼鏡の奥にある綺麗なアーモンド型の瞳に、すらっとした身体。

私と同じ学年の相原くんと肩を並べるほどの秀才イケメン。


そんな彼だからもちろんファンは多く、告白されているところを何回か見かけたことがある。


けどみんな断られているらしく、恋破れ、泣いて走り去る女子は多数。

聞けばその断り方はかなり冷たいらしく、「バカに興味はない」「僕が何も知らないアンタと付き合うと思う?」なんてそんなキツい言葉を投げつけているらしい。


顔もいい、頭もいい。

だけど性格に難アリな男。




そんな中邑くんに言われた後ろの女子二人は、何か文句を言いながらガタガタと大きな音を立て、そして図書室を逃げるように出ていく。


その二人がいなくなると、しん、といつもの図書室の静けさが戻った。


「……これでいいですか?」

そのあと、そう中邑くんの声。

自分に言われたのか分からず、私はきょろきょろと辺りを見回す。

けど、私と中邑くん以外に人の姿はなく、どうやらその言葉は私に向けて発せられたもののようだ。



「あ、ありがとう……」


私は座って本を読んでいる中邑くんに、言葉を返した。


中邑くんは、それに対して何も答えない。

目も合わせない。


それで終わりなのだと、私はノートに目線を戻した。
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