家族じゃなくなった日。
「ーーなぁ、翔太郎!」
「なに?」
「帰ってきたらしいよ!」
「誰が?」
「天野さん♪」
「えっ、まじで⁉︎」
天野。
私の旧姓。
「ーーすいません、天野さんって…。」
私は隣で一緒にその話を聞いていた佐藤さんに話しかける。
「うーん、多分息子さんの方だろうねぇ〜。優香ちゃんは会うの初めてだよねぇ?とりあえず、会ったらお辞儀しといちゃえば大丈夫だから!」
「……どんな人なんですか?」
7年間離れて育った。
父の顔はたまに新聞とか雑誌に載っているのを見たり、携帯の方でも調べたりしていたから白髪が増えたなとか、相変わらずの派手な格好だなとか見ているけど、兄の顔は載っていなかった。
だから成長真っ只中の兄がどんな大人に育って
いるのかとても気になった。
「そうねぇ〜…。背は藤田くんよりも少し低めで、物腰柔らかい人かしらねぇ?わからない事があったら老若男女とわず優しく教えてくれるし、次期社長候補で仕事の方もしっかりなさってる方だし、まぁ、優香ちゃんも玉の輿狙って頑張りなさいよ!」
背中をバシッと叩かれる。
「あたっ‼︎」
とりあえず、私はカモフラージュの為に黒縁メガネをかけた。
ーーガチャ。
後ろを見ると身を覚えのある人。
たぶん、あれが私の兄。
天野 春(アマノ シュン)
ーーガタっ
「「「おはようございます。」」」
すると、みんな一斉に立って春にお辞儀をしだす。
私は出遅れて一瞬目があったような気がした。
手に冷や汗を握る。
「おはよう!さぁ、仕事に戻ってくれ!まだまだ仕事は山積みだからなっ!」
さぁ、と同時に手を叩く。
するとみんな座り出した。
またもや私はその動作に遅れる。
「ごめんね、優香ちゃんっ!説明してなかったわぁ! 」
隣で手を揃えて謝る佐藤さん。
「いえいえ、私がついていけなかったのがいけなかったんですよ!」
すると肩を叩かれる。
「あなたが山本さんですか?」
そこには春がいた。
大人に成長した春がーー。