家族じゃなくなった日。
「藤田さん、待ってください!」
今日は少し高めの青いハイヒールを履いてきた。
お気に入りの靴だけど、まだ足には慣れてなくて踵が少し痛い。
藤田さんは話を聞いてくれないし、待ってもくれない。
「藤田さん、藤田さん‼︎」
「着いたぞ。」
「うわっ‼︎?」
藤田さんが急に止まり、私は反応が遅れて背中にぶつかる。
「…危ないだろう。ちゃんと前見て歩け。」
「す、すみません…。」
私の話は聞きやしないのに、自分は言いたい事言いやがって、ムカつく。
立ち止まった目の前には黒崎株式会社。
そう言えば、ココで働いてる事になってるんだっけ。
藤田さんが中に入って行くの見て私も続いて入る。
天野companyほどではないけど、内装も綺麗にしてあってここで働いていたとしても誰にも何も文句は言われないだろう。
むしろ自慢できるくらいだ。
「早く行くぞ。」
さっさと前に歩いて私の前を突き進む。
藤田さんは父に似ている。
自分中心で物事が動いているみたいに物事を口で言わず自分のしたい事だけ言って実行して。
こっちだって考えている事があるのに話くらいちゃんと聞いてよ。
…って思っても、私はそれを口にする事は出来ない臆病者。
腹が立っても表には出さず、心の中に押し込める。
それができたのも小学6年まで。
中学生になったら、抑え込むのはだんだん難しくなっていった。
人にあたれないこの強い気持ちを物にあたっていた。
苛立つと無性に何か投げたくなるし壊したくなる。
それでやった事は家の受話器を壊した事。
悪いと思っていても私の心は酷く荒れていて、花が枯れていくように、私の心も枯れていっているようだ。
父は尊敬している。
けど、それと同じくらい怒りと憎しみもある。
何もなかったなんて言わせない。
何もない事なんてなかったんだから。
母を泣かせて、私を捨てた。
一体何の意味があったのか分からない。
わたしに隠れてこっそりと泣く母をもう見たくないから。
だから私は家族をやり直したいと思った。
私はそれを誰よりも強く望んでいる。
けど、けど、私の中ではまだ何も解決していない。
解決するために私は成果を上げて、名を上げて、貴方のところまで上り詰めてみせる。
そしてその意味を聞いてやる。
父に似ている藤田さん。
私は貴方が少し苦手。
「何してる、行くぞ。」
「…ーーはい‼︎」
けど、乗り越えてみせる。
あなたも父も。