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その2:前世の夫
(前世の夫……)
おっと、OTTO、オット……。
ダメだ。日本語変換機能が途端に上手く働かなくなる。
「あなたが私の前世の夫?」
「忘れたとは言わせねえぞ」
念には念を入れて確認してみたが、困ったことに一色社長は本気のようだ。本気と書いてマジと読む。なんて性質が悪いんだ。
もちろん、前世の夫などという戯言を信じる気など毛頭ない。
悪い冗談でしょう、と笑い飛ばすのは簡単なことのように思えたけれど、私を射抜く金色の瞳がそれを許さない。
「リリア」
一色社長は私を見つめながら私ではない人の名前を愛しげに呼び、再び顎を上に向けさせた。
偽りばかりを並べ立てられている中、固く握られた手の強さだけが本物だった。
(……違う)
私の名前は優里だ。
リリアなんて人は知らないし、“レオンハルト”という名前も初耳だ。
そうだ、人違いに決まっている。だから、もう解放して欲しい。
一色社長が確信を持っているからこそ、余計に怖くなる。
「今度は避けるなよ?」
……金色の瞳に魅入られたら最後、きっと誰も逃げられない。