クラウディアへようこそ
その6:一色玲央という男
(本当にここでいいのかな)
言われた通り仕事が終わると真っ直ぐ駐車場にやって来たわけだが、地下駐車場にはまだ一色社長の姿はなかった。
海外出張から帰って来たばかりの一色社長と平社員の私ではそもそもの仕事量が違う。
遅刻に目くじらを立てるのも憚られるので、しばらく大人しく待つことにした。
(大変なことになっちゃったなあ……)
私はまだ一色社長と食事に行く心の折り合いをつけられないでいる。
会社にいる間は社長と社員という明確な線引きがあるが、その枠を外れればただの男と女。
ましてや私達は元夫婦らしいし……。
(食事くらい当然ってこと?)
けれども、私は前世の記憶のない“名無し”なのである。
元夫婦であることを盾に色んなことを要求されたって戸惑ってしまう。
……まあ、現時点ではもらっているものの方が多いわけだけど。
定職にカモミールの苗。
どちらとも既に生活に根ざし始めている。
もし仮に、私がリリア様の生まれ変わりだってことが間違いであっても、取り上げられたら困る。