クラウディアへようこそ
**********
一色社長と私を乗せた車は会社を出るとすぐに最寄りの入口から高速道路に入った。
代わり映えのしない窓の外の景色を眺め続けること早20分。未だに助手席と運転席の会話は皆無である。
(気まずい……)
社内に流れる妙な緊張感のせいで、シートベルトを握る手につい力が入る。
“全てあなたの心次第です”
ふいに賀来副社長の台詞が頭をよぎった。
(“あなたの心次第”って言われてもなあ……)
楽しく食事出来る気がしないのは最初から分かり切っていたことである。
いっそのこと、何も覚えていないお前なんて用済みだと切り捨ててくれれば良いのに、一色社長は何かにつけて私に構いたがる。
(元夫婦って……大変……)
ふうっと意識が遠のきそうになった時、フロントガラスを見つめていた一色社長がこちらにチラリと流し目を送った。
「賀来と何を話していたんだ?」
「……聞いていたんじゃないんですか?」
尋ね返してみても一色社長は一向に答えなかった。というか答える気がないのか。
(何を話してたって……)
思い返しても本当に大した会話はしていない。