【完】素直じゃないね。
「危ねー」
頭上から降ってきた声と甘い匂いで、すぐに、自分が高嶺の胸に顔を埋めていることを悟る。
転びかけたあたしを、高嶺が抱きとめてくれていた。
こんなゴツゴツした硬い石の上で転んだら、体も浴衣もひとたまりもなかった。
まさに危機一髪、だ。
「えへへ、助かった……。
ありがと」
高嶺を見上げ、笑いかけた。
その時。
──ぎゅっ……。
背中に腕がまわり、体が抱きすくめられて。
再び高嶺の胸に顔が埋められ、甘い香りがあたしを襲う。
な、なに……?
自分に起きている状況を理解できない。
あたし、今、なんで……抱きしめられてるの……?