【完】素直じゃないね。
俺の家から美織の家までは、徒歩20分程度。
走って美織の家まで行くと、美織は家の門の前に立って待っていた。
「美織」
俺の声に気づくなり、うつむき立っていた美織が、顔をあげてこちらに駆けてくる。
そして駆けてきた勢いそのままに、思いきり抱きついてきた。
電話をしてすぐ家を出たのだろう。
外で待っていた美織の体はすっかり冷えきっていた。
「家で待ってなって言ったのに」
「ごめん。でも来てくれてありがとう……」
俺は美織の背中に手を回し、ぽんぽんとあやすように背中を叩く。
「俺がいるから、もう大丈夫だよ」
「うん……」
三歳年上なのに、俺よりもっと小さな子どもみたいだ。
少し経って美織が体をそっと離した。
「ごめんね、こんな時間に呼びだして」
「いーよ。俺ちょうど暇してたから。
それに言ったでしょ?
美織になにかあったら、飛んで行くって」
「ありがとう」
俺を見上げて力なく微笑んだ美織の目には、今にも溢れそうなほどに涙が溜まっていた。
縋るようなその眼差しに、胸が、痛んだ。