【完】素直じゃないね。
それから美織を家まで送り届け、俺は帰路についた。
美織と別れた後は、決まって言いようのない虚無感に襲われる。
力なく吐いた息が、白い靄となって空を漂う。
ポケットに手を突っ込み、いろんな思いを押し込めるようにして再び歩き出した、その時。
俺は向こうから走ってくる人の姿を認めて、思わず足を止めた。
「宙」
俺の存在に気づいた宙が、驚いたように足を止めてイヤホンを耳から外す。
「わ! 高嶺じゃん!」
「こんな時間になにやってるんだよ」
「ランニングランニング!
急に体動かしたくなっちゃってさー!
高嶺こそ、こんな時間にひとりでなにやってんの?」
「美織んとこ行ってきた」
俺の答えに、へらへら笑っていた宙の顔が一瞬にして曇る。