【完】素直じゃないね。


反射的に顔をあげれば、高嶺が目を伏せたまま口を開いた。


「高嶺朝陽は、すごい人だった。
勉強も運動もできて性格も良くて、だれからも好かれて」


ぽつりぽつりと声をこぼしていく高嶺。


「みんな、兄貴のことが好きだった。
落ちこぼれの俺と違って」


「落ちこぼれ? 高嶺が?」


「不良とばっかり絡んで、勉強もロクにしない出来損ないの弟。
それが昔の俺だった」


「え……」


「俺、元ヤン」


いたずらが見つかった子どものように、高嶺が軽く笑う。


今の高嶺とのギャップに驚いてしまうけど、でもそれが、本当の高嶺なんだ。


高嶺の表情が、声が、再び硬くなる。


「二年前の今日、俺は親父と喧嘩して家を飛び出た。
原因なんて、覚えてない。
それくらい些細なことだった」


「うん」


「親は俺を見放してた。
だけど、兄貴だけは違った。
飛び出した俺を追いかけてきて、俺の話をちゃんと聞いてくれようとして。
その時だった。俺に向かって車が突っ込んできたのは。
兄貴は俺を庇った。こんな俺を庇って、死んだ」


「……っ」

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