【完】素直じゃないね。
『悠月。今度の土曜、一緒に買い物行かない?』
『やだ。なんで兄貴と買い物なんて行かなきゃいけねぇんだよ』
『悠月と一緒だったら、楽しいかなって。
悠月、俺よりファッションセンスあるし』
『知らねぇよ』
『来てきてくれたら、なにか奢ってあげる』
『……まじ?』
『ははっ、悠月ってば現金なんだから。
よし、じゃあ決まりね。
楽しみだな、悠月との買い物』
そう言って朗らかに笑う兄貴は、みんなに向けるのと同じ笑顔を俺にも分け隔てなく向けてくれた。
俺が親父と喧嘩した後は、決まって気分転換に誘った。
家族のだれからも悪者扱いされる俺の言い分を、いつだって受け止めようとしてくれた。
喧嘩でつくった傷を、なにも言わずに手当してくれた。
どんなに夜遅くに帰っても、兄貴は自分の部屋で俺が帰るのを待っていてくれた。
兄貴には素直に言えなかったけど、俺にとって兄貴は、俺の世界の中心だった。
自慢の、大好きな兄貴だった。