【完】素直じゃないね。
「……はぁ」
俺は目を開くと、額に手を当て、ため息をついた。
目の前にいたはずの兄貴は、もういない。
暗闇に染まった天井が視界を覆う。
学校から帰ってきて勉強していた俺は、休憩しようとベッドに横たわって、そのまま眠ってしまったらしい。
──兄貴の夢を見たのは、久しぶりだ。
この前、命日を迎えたからだと思うけど。
灯りがついていない真っ暗な自室は、痛いほどにしんとしている。
「兄貴……」
ベッドに仰向けになったまま、暗闇に縋るように、そっと呼んだ時。
突然、静寂を破るようにスマホの着信音が鳴った。
スマホは、勉強机の上だ。
緩慢な動きで額から腕を離すと、体を起こし、ベッドから降りて勉強机に向かう。
きっと、美織だろう。
ディスプレイをまともに見ないまま、電話に出る。
「もしもし?」
『あっ! もしもし!?』
スマホの向こうから聞こえてくるのは、美織とはまったく違う、明るい声。
この声って──。
「つかさ?」