【完】素直じゃないね。
海が見渡せる大きな橋の上。
ここは──兄貴と美織が初めてデートしたところだ。
俺は覚悟を決めて、息を吐くように声を出した。
「美織に、話したいことがある」
「話したいこと?」
美織の問いに俺はうなずき、目を伏せた。
「……美織、ごめん」
「え?」
「なかなか言い出せなくて」
──『間違えたら、少しずつ修正していけばいいんだよ。
過去に戻ることも、今に居続けることもできないんだから』
俺は顔を上げ、美織の瞳を見つめた。
もう、進むしかない。
「……俺、進みたい道ができた。
だから、」
「やだなぁ」
別れよう、そう続けようとした俺の声を遮るように、美織がおどけたように笑った。
「一番最初にそれ言っちゃうの?
デート、楽しみにしてたのになぁ」
「美織?」
「……うん、わかってるよ。
あなたが言おうとしていること」
「え……?」
美織はうつむき、ぎゅうっとセーターの裾を握りしめている。
「……本当はね、わかってたの。全部、全部。
いつかこうなることも、わかってた」
想定外の美織の言葉に、思わず目を見開く。