【完】素直じゃないね。


海が見渡せる大きな橋の上。

ここは──兄貴と美織が初めてデートしたところだ。


俺は覚悟を決めて、息を吐くように声を出した。


「美織に、話したいことがある」


「話したいこと?」


美織の問いに俺はうなずき、目を伏せた。


「……美織、ごめん」


「え?」


「なかなか言い出せなくて」


──『間違えたら、少しずつ修正していけばいいんだよ。
過去に戻ることも、今に居続けることもできないんだから』


俺は顔を上げ、美織の瞳を見つめた。


もう、進むしかない。


「……俺、進みたい道ができた。
だから、」


「やだなぁ」


別れよう、そう続けようとした俺の声を遮るように、美織がおどけたように笑った。


「一番最初にそれ言っちゃうの?
デート、楽しみにしてたのになぁ」


「美織?」


「……うん、わかってるよ。
あなたが言おうとしていること」


「え……?」


美織はうつむき、ぎゅうっとセーターの裾を握りしめている。


「……本当はね、わかってたの。全部、全部。
いつかこうなることも、わかってた」


想定外の美織の言葉に、思わず目を見開く。

< 283 / 409 >

この作品をシェア

pagetop