【完】素直じゃないね。
『朝陽さんの気持ちはどうなるの!』
どこからか、あいつの声が聞こえた。
『悠月』
兄貴の優しい笑顔が、脳裏に浮かんだ。
思い出さないように、封印していたあの日の記憶が蘇る。
──事故に遭った日。
倒れた兄貴を抱き起こすと、腕の中の兄貴は、柔く穏やかに微笑んでいた。
『悠月が無事でよかった……』
それが、兄貴の最期の言葉だった──。
……ああ、そうだ。
兄貴は、最後まで俺を守ろうとしてくれた。
「兄貴……っ……」
──そして。
一筋の涙が、つーっと頬を滑り落ちた。
それは、あの事故の日以来、初めて流した涙だった。
なんで俺は兄貴の気持ちを忘れてたんだろう。
こんな俺の姿を見て、兄貴が喜ぶはずないのに。