【完】素直じゃないね。


『朝陽さんの気持ちはどうなるの!』

どこからか、あいつの声が聞こえた。


『悠月』

兄貴の優しい笑顔が、脳裏に浮かんだ。


思い出さないように、封印していたあの日の記憶が蘇る。


──事故に遭った日。

倒れた兄貴を抱き起こすと、腕の中の兄貴は、柔く穏やかに微笑んでいた。


『悠月が無事でよかった……』


それが、兄貴の最期の言葉だった──。


……ああ、そうだ。

兄貴は、最後まで俺を守ろうとしてくれた。


「兄貴……っ……」


──そして。

一筋の涙が、つーっと頬を滑り落ちた。


それは、あの事故の日以来、初めて流した涙だった。


なんで俺は兄貴の気持ちを忘れてたんだろう。

こんな俺の姿を見て、兄貴が喜ぶはずないのに。

< 290 / 409 >

この作品をシェア

pagetop