【完】素直じゃないね。


誠実で、温かいその眼差し。


今、この優しい人にすべてを委ねられたら、どれだけ幸せだろう。


でも──。


あたしは下唇を噛むと、頭を下げた。


「ごめんなさい」


「つっちゃん……」


充樹先輩が、あまりにもまっすぐ見つめてくるから。


だからこそ、この人に返す気持ちだって、まっすぐじゃなきゃだめだ。


「正直、まだ高嶺への気持ちを消せてない……。
こんな中途半端な気持ちで付き合ったら、充樹先輩に申し訳ないです」


高嶺を忘れるために充樹先輩の気持ちを利用するなんて、そんなことしたくない。


高嶺への失恋があるからこそ、理解できた。


その気持ちが、どれだけ真剣でまっすぐなものなのか。

そして、好きって想いを伝えることが、どれだけ勇気がいることかも。

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