【完】素直じゃないね。
少し経って、あたしが教科書を片づけ終えた頃、乃亜が戻ってきた。
「乃亜、教室戻ろ。
ってあれ? どうした?」
乃亜の様子が変。
困り果てたように、ぱっつん前髪に隠れていない眉を下げている。
「ごめんね、つかさちゃん。
係の仕事があるから、先に戻ってて?」
乃亜の係と言えば、化学の教科係だ。
さっき、仕事を頼むのに呼ばれたに違いない。
ちらりとさっきまで先生がいた方に視線をやれば、もうその姿は化学室にはなかった。
乃亜ひとりに仕事を押しつけて行っちゃったってわけね。
「仕事って、なにするの?」
「顕微鏡を棚に戻して置いてくれって」
そういえば、教卓の横にあった大きなテーブルに、何台もの顕微鏡が置いてあった。
あたしたちの授業では使わなかったから、前の授業で使ったりしたんだろう。