【完】素直じゃないね。
でも今日の昼休み、乃亜には部活の集まりがある。
乃亜が困っているのは、きっとっていうか絶対そのせいだ。
すでに、この時点で昼休みが始まって五分ほど経過してしまっている。
「大丈夫よ、乃亜。
あたしがやっておくから」
「え? でも……」
「部活の集まりあるんでしょ?
発表会の打ち合わせで大変だって言ってたじゃん。
ほら、早く行かないと、打ち合わせ始まっちゃう」
「でもつかさちゃん、今日桜庭先輩とお昼一緒に食べるんでしょう……?」
今にも泣き出しそうなくらい目をうるうるさせて、乃亜が訊いてくる。
「充樹先輩なら、大丈夫。
連絡するから」
乃亜の遠慮を吹き飛ばすように笑って言う。
事情を伝えればわかってくれる。
充樹先輩は、そういう人だ。
「ごめんね。
ありがとう、つかさちゃん……っ」
「うん!」
笑顔で大きく頷くと、乃亜が泣きそうな顔で笑い、教科書を胸の前に抱いて化学室を駆け出た。
乃亜のたたた…と駆ける足音が遠ざかっていき、化学室はいよいよあたし以外だれもいなくなった。