【完】素直じゃないね。
静けさが崩れ、桜庭が背後で足を止めたのがわかった。
ピンと張った糸が、ぴくりと揺れたような感覚。
数秒経って、冷たい声が返ってくる。
「君につっちゃんはもったいないよ。
未練がましく想ってないで、いい加減諦めてくれないかな」
「諦められるもんなら、もうとっくに諦めてる。
でも、あいつだけは譲れない」
「それって、戦線布告?」
「そうなんじゃないですか?」
挑発するように言うと、桜庭も負けじと返してくる。
「俺、つっちゃんとふたりきりでいたんだよ。さっきまで。
みんなにいい顔してる君よりも、俺はつっちゃんと一緒にいる」
──〝ふたりきりで〟
「それでも、奪いにいくだけなんで」
「……寝てるからって、つっちゃんに手出したら許さないから」
吐き捨てるように言うと、桜庭がまた歩き出し、足音が遠ざかっていく。
やっと。本音でぶつかれた。
少し顔を上げ小さく息を吐くと、俺は保健室に足を踏み入れた。