【完】素直じゃないね。
と、こちらに呼びかけてくる保険医の声が聞こえてきた。
「高嶺くーん。ごめんね、ちょっと職員室行ってくるから、なにもないとは思うんだけど、日吉さん見ていてくれる?」
「あー、はい」
カーテン越しに返事をすると、パタパタとスリッパの音を立てて、保険医が保健室を出ていく。
白い保健室に、静寂が訪れる。
俺は再び、眠るつかさに視線を落とした。
『俺、つっちゃんとふたりでいたんだよ。さっきまで』
桜庭の声が、耳の奥で聞こえる。
しらずしらずのうちに、俺はぎゅっと拳を握りしめていた。
肝心な時、俺はこいつのそばにいてやれない。
一番に、駆けつけてやれない。
つかさが迷子になった時だって、そうだった。
俺がつかさを見つけた時、桜庭は先につかさを見つけ、寄り添っていた。
あの時は、引き返すことしかできなかった。
そんな自分が惨めで悔しくて、歯がゆくて。
俺が、守ってやりたいのに。