【完】素直じゃないね。
保健室まで充樹先輩にお姫様抱っこで運ばれたということも、桜先生に教えられた。
『桜庭くんがここまで運んでくれたのよ。
あなたをお姫様抱っこして、王子様みたいに颯爽と現れたわ』
なぜかにこにこと嬉しそうに語る先生の言葉を心の中で反芻すれば、今も鼓動が騒がしくなる。
お姫様抱っこなんて、あたしにとっては少女漫画の世界の出来事だ。
まさか自分がされる側になるなんて。
だけど、その一方で、胸にじわっと染みる温かい感情。
充樹先輩、保健室まで運んでくれたんだ……。
遠いのに、重いのに。
眠ってる間、なんとなく温かい心地がしたのは、そのせいなのかな。
「ほんとに、ありがとうございました」
頭を下げると、そんなあたしを見つめ、充樹先輩が目を細めた。
「よかったよ。つっちゃんの元気そうな顔が見れて。
つっちゃんは元気じゃないとね」
窓から差し込む光を背に受けて、充樹先輩の少し長い髪がキラキラと煌めく。