【完】素直じゃないね。
そうしてやっとのことでベランダに出た途端、今度は電話がかかってくる。
ディスプレイを見れば、高嶺からの電話で。
「もしもし?」
中に聞こえないように声を潜めて尋ね、壁の影に隠れる。
『下』
そう言われ、ベランダから見下ろせば、二階下──真下のグラウンドに電話を耳に当てた高嶺が立っていた。
「た、高嶺っ」
『忘れ物』
「え?」
次の瞬間、高嶺がこちらに向かって下からなにかを放り投げてきた。
反射的にスマホを持ってない方の手を伸ばし、それをキャッチする。
高嶺が投げてきたもの。それは筆箱だった。
「あ! これ!」
『お前の机の上に置きっぱだった』
わざわざ届けに来てくれたんだ……。