【完】素直じゃないね。


「……っ」


気づけば、充樹先輩の人差し指の腹が、あたしの唇に押しつけられていた。

あたしの声を、それ以上、紡がせないとでもいうように。


顔をあげれば、充樹先輩が笑っていた。

慌てて取り繕ったような、そんな笑みで。


「つっちゃん、寒くない?
今週末デートなんだから、風邪なんて引いちゃダメだよ?」


充樹先輩らしくないその笑顔に、あたしは続けようとしていた言葉を忘れる。


今、なんて言おうとしてた……?


あたしは、充樹先輩のこと──。


「あ! そういえば、日曜のことなんだけど、イルミネーション見に行こうか」


あたしの唇から指を離し、充樹先輩がやけに明るいトーンで提案してくる。


「イルミネーションって、もうやってるんですか?」


「やってるやってる!
じゃあ、五時に東公園前で集合でいい?」


「お、了解です」


約束の日曜は、明後日だ。

あたしは意識を日曜に向けた。







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