【完】素直じゃないね。


「わっかんねぇことばっかだよ。
だれかのこと、初めて好きになったから」


なにかにぶつけるように、ありのままを吐露する。


恋なんて、暇つぶし程度にしか思ってなかった。


兄貴と美織のことを見ていても、ふたりが笑っていたら、ただそれだけでよかった。

羨ましいとは一度も思ったことなかった。


でも実際当事者になってみれば、想像以上に厄介で、ひたすらもがくことしかできなくて。


「あいつの気持ちを最優先にしたい。
でも、やっぱりほしい。つかさが。
違う奴なんかに渡したくない。
矛盾ばっかりで、どうすればいいかわかんね」


口から出た言葉は、白い靄となって、純黒さを増した冷たい大気に溶けていった。


「恋なんて、わからないことばっかりだよ」


ぽつりと、俺のそれに重ねるように、宙が白い靄を作った。

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