【完】素直じゃないね。
「俺、ドリンクバー行ってくる」
乃亜を誘惑するだけしておいて、高嶺はグラスを持つと席を立った。
そして、まだ頬を赤らめている乃亜も、
「あっ、私もお手洗いっ!」
よほど恥ずかしいのか、この場から逃げるように行ってしまった。
そこに残された、あたしと宙くん。
う、うそでしょーっ!
男とふたりきりとか……!
「日吉ちゃん」
助けを求めるように駆けていく乃亜の背中を見つめていると、不意に名前を呼ばれ、あたしはびくっと肩を揺らした。
ちらりと視線を上げ宙くんを見ると、あのクリクリした瞳と目が合った。
……大丈夫大丈夫。
乃亜の男装だと思えばいいんだ。
似てるのは目だけだけど……。
なんて、思わない思わない!
宙くんは乃亜、宙くんは乃亜……。
そう言い聞かせると、少しだけ強張っていた肩の力が抜けていくのが分かった。
さすが、あたしの天使パワーは絶大だ。