一生に、二度
「高田ー、今日はとんかつだ」
そう言って私の後ろを通り過ぎる矢野さんを追う。
「会えたか」
とんかつ屋で席に着いたとたんに発せられた言葉にえ、と戸惑うも。
月に一度、毎回交わされる言葉にすぐに返す。
「会えましたよ」
この会話の目的語はもちろん、「娘に」だろう。
彼は私が父親に引き取られた娘に月に一度、月末あたりに会えることを知っている。
それで月初めには私に聞く。
"会えたか"と。
「『会ったか』じゃなくて『会えたか』って聞くところが相変わらず嫌味ですね」
「だってそうだろ。向こうが待ち合わせに来なかったら終わりなんだから」
「離婚するときにお互い誓約書に印を押しましたからね。会えますよ」