甘美なキョウダイ
「あらお帰りなさい」
けれど勢いよくドアを開けたら、ちょうど優香さんが玄関ホールに立っていた。
「……た、ただいまです…」
一人で景気付けのための行動が目撃されて恥ずかしい。
でもそれ以上に優しく微笑む優香さんの「お帰りなさい」と言う言葉を聞いて、胸に何とも言えない暖かい気持ちが広がっていくのを感じた。
こうして出迎えられるのは、小学生の頃にお母さんが死んで以来だ。
記憶のかなたの懐かしい感覚がどうしようもない程胸を燻り、照れながら靴を脱いで優香さんの傍に寄った。
「丁度いま悠斗と美優が来たところよ。まだ荷物の整理で忙しいみたいだから、二人が落ち着いたら外へ食べに出ましょう」
そういう優香さんの言葉に頷き、そう言えばお父さんとも外で落ち合う予定だったなと思い出した。
……初めて新しい家族が揃う日だ。
これからも日常になっていくのだろう。
それまで部屋で休んでて、と言われた私は階段を上がり割り当てられた自室へと向かって行く。
けれどその時。
「ねぇ、悠斗。スマホの充電器……」
ガチャリ、と開いたドアから美優さんが出てきた。
まさか開くとは思っておらずこのタイミングで鉢合わせるとは思っておらず、軽いパニックを引き起こしたのと、一気に沸いて来た緊張で何か言葉を交わす余裕がなかった。
美優さんは一度は目を見開いたものの、直ぐに綺麗な笑みを浮かべて小さく会釈してくれる。
そのまま美優さんは私に話しかけることなく、美優さんの部屋の隣の…悠斗さんの部屋であろう部屋へ入っていった。
……あぁ、緊張した…。
バグバグと言っている心臓を抑えながら、少し離れた自分の部屋へとよろよろと向かって行く。
悠斗さんの部屋、美優さんの部屋、客間、客間、私の部屋と言う間取りだ。反対側の通路はまだ全部空室だ。
いや今はそんなことどうでもいい。
問題は美優さんだ。
会釈だけであの破壊力。どうしよう。仲良くなれるよう頑張ろう!と思ったけれどその前にあの美形の耐性を作る方の努力をした方がいいかもしれない。
本当に遠くない未来に鼻血を吹く自分が想像できる。
自分の部屋のドアを開けズルズルと部屋に入ったらすぐに座り込んだ。
……まずは、夕食を乗り切ろう。