甘美なキョウダイ
「お待たせしてしまってごめんなさいね」
そう言ってお父さんに微笑んだ優香さんに、お父さんは「気にしないで」と返した。
「……ところで悠斗くんと美優ちゃんは車を回しに?」
「えぇ。ふふふ、美優とっても拓弥さんに会うのに緊張していたからまだ暫くは来ないんじゃないかしら」
……え?
優香さんの意外な言葉に目を見開く。
美優さん緊張してたの!?
確かに私の席からは美優さんは全く見れなかったし、私自身が緊張していたのでそんなの分かるわけがなかった。
あんな可愛い美優さんが緊張だなんて考えられないってこともあるし。
それはお父さんも同じなよう。
「いやぁそう言われると何だか僕まで緊張してきちゃったな」
そう言って優香さんに照れたように笑いかけた。
……二人の仲がとっても良好なようで何よりね!
微笑み合う二人を間近で見るとこっちまで恥ずかしくなってしまう。
「美優は人見知りだから多分今日は緊張で固まって笑いすらしないと思うわ。でも気は悪くなさらないでね」
「大丈夫。これから顔を合わせる機会も増えるだろうしね」
「こんな素敵なレストランにまた来る時にはきっと楽しくおしゃべりが出来るといいのだけど」
「いやあプレッシャーだなぁ」
「なら5度目にここに来た時、で手を打ちましょうか」
「それは僕の格好が付かないね。3度目で手を打ってもらおうか。どうも女の子の心情は理解し難い無粋な男だからね、僕は」
「どうやらそのようね。沢山こんな素敵なところに来ましょうって誘っている妻の言葉に気づかないんですもの。ここは8度目で手を打とうと言うべきところよ?」
お父さんと優香さんは楽し気に言葉のやり取りを楽しんでいる。
私はと言うと先ほどの優香さんの言葉について考えていた。
……あの美優さんが引きこもり。
やはりさっきから優香さんが語る美優さんにはどこか引っ掛かりを感じる。
けれど私よりも優香さんの方が美優さんを知っているのは地球は丸いと言う事実ぐらい当然であるので、私はへぇそうなんだ…と優香さんの言葉を受け入れるしかない。
それにまだ美優さんと会話らしい会話が出来ていないことも、人見知りだと言われると納得がいく。
私はもっぱらゲラゲラと笑っていれば友達が出来る太刀なので人見知りの感覚は分からないが、見た目も可憐な美優さんは性格まで可憐なようだ。
……ならここは私が頑張って押した方が早く仲良くなれるのかも!?
いや見るだけで緊張するんだからちょっと無理。大分無理。
どうやら美優さんの前では自称元気だけが取り柄女も廃れてしまう。