甘美なキョウダイ
そう言った美優に愛は顔を曇らせた。
「禁句だね、それは」
「……あらごめんなさい」
クスクスと笑いながら、悪びれもせずカップを口に運ぶ美優に愛は肩をすくめた。
「……美優にならいいよ。ほら今日も写真撮るんだろう?」
そう言ってテーブルの上に置かれていた美優のスマホを長い人差し指で差した愛は、中性的な容姿だが到底女とは思われない。
声の低さ、170を超える身長と来ている男用の制服で誰が愛を女だと思うのだろうか。
一目で気づいた美優曰く「逆に何故周りは騙されてるのかしら」だそうだ。
普通は気づかない。
だがそんな美優であるからこそ、度々女だと指摘されてもサラリと愛は流すことができるのだ。
「アイ、寄ってくれる?」
美優は愛から指摘を受けて、スマホのカメラを起動し正面に座る愛の元へ移動した。
先ほどから二人の動向に意識を向けている周りはそれだけでも色めき立つ。
なのに……
「はい寄って」
二人が写真を撮るために密着して頬を寄せてなどいたら、店内であろうとも叫んでしまうのは不可抗力だろう。
注意するべき店員も麗しき二人に思わず見惚れて、注意など記憶のかなたへと飛んでいる。
パシャパシャと二枚程写真を撮った美優は…ふとあることを思いつき、「頬にチュッてしても大丈夫?」と愛にその提案を投げかけた。
「周りのファンサービス?」と理由を問いながらも快諾した愛に美優は「違うわよ。悠斗への当てつけ」と答えを伝え、愛の滑らかな肌に唇を落とした様子を写真に収めた。
そんな二人に更に周りは盛り上がるばかり。
愛はそんな周りをみて「なら僕もお返し」と、スマートに美優の頬に口づけたものだから、あちこちで椅子が倒れる音やシャッターを押すなどが店内に響き渡った。
美優に関しては愛の行動は予想外のものだったので、咄嗟に撮影画面に指が触れてしまいブレブレの写真を撮っていた。だがブレているからこそ、美優がどこかの男に頬ではなく口にキスをされているようにしか見えない。
ひらりと周りの生徒に手を振っている愛を横目にその写真を確認した美優は、思わず口元を吊り上げて____悠斗に送った。