甘美なキョウダイ
「ねぇ、悠斗も折角だから写真を撮りましょうよ」
「どうして?」
スマホを片手に持った美優は悠斗を煽るかのごとくそう切り出し、カメラを起動させた。
相手は女だと分かっていつつも、男と撮ったかのような写真を自分に送りつけてきた美優に怒っている悠斗は舌を打ちそうになるのを堪えて、にっこりと笑みを浮かべた。
まるで二人は狸の腹の探り合いが如く笑っていて薄気味悪ささえ感じる。けれど周りの人間から見れば仲のいい兄妹そのものであり、また目の保養であり、また二人がデキているという説を信じている者からすれば最高のシチュエーションであった。
「____私が他の男と写真を撮って、悠斗とは撮らないなんてダメだからでしょう?」
「だからって俺には唇にキスだなんて出来ないな」
「あら唇にだなんてしてないわよ。ねぇアイ?」
急に狸の睨み合いに突き出された愛は、動揺することなく一つ頷いてまた傍観に徹する。
ほら、と綺麗に笑った美優は自身の考えを探っている悠斗に近づいてその腕を取った。
悠斗にそっと寄り添った美優は、周りの今までにない盛り上がりとかすかに聞こえるシャッターの音を確認して悠斗の顔を見上げる。
「ねぇ怒らないで」
「……怒ってないよ?」
「そう?機嫌悪そうよ」
「……どうしたら許してくれるかな、美優は」
そんな悠斗の笑みに乗せられた分かりやすい誘導に、美優は乗る意を示して悠斗のシャツを手でつかんだ。
「許して、俺の美優」
そして悠斗は180センチを超える長身を折って、美優の額に唇を押し付ける。
周りからの反応にクスクスと悠斗の影に隠れて笑っている美優を見て、悠斗は美優がもくろんでいたことを察した。……美優らしい、と写真に対しての怒りは消し、美優のお望みに応えようと頭にもう一つキスを落としてから美優から離れた。
美優はそんな悠斗に照れたように微笑む裏で、これでアイとのうわさを打ち消すほど…いやアイとの噂が更に自分と悠斗の関係の憶測を広めるに役立ってくれるだろうと打算的な考えに満足する。
やはりこの二人は見ていて面白い、と異常なまでに周りの関心を引き付けて離さない二人を、周りからの関心を常に引きたい愛はジッと観察するのであった。