政略結婚ですが愛されています


その日の就業後、仕事を終えた私は、急いで駅に向かっていた。

「珠美!」

残業が続いていた毎日に区切りがつき、気持ちも足取りも軽く歩いていると、背後から同期の前野佐都里に声をかけられた。

佐都里は開発一課でシステムの開発をしている。

ゲーム好きが高じて、父親のパソコンを借りてプログラムの勉強を始めたことがこの道に進むきっかけだったらしい。

女性の開発者は珍しくはないけれど、納期直前になれば休日返上、泊まり込みは当然という生活を長く続けられる女性は多くはない。

結婚と同時に退職する女性が多い中、佐都里は周囲から体調を心配されるほど仕事に打ち込み、仕事をやればやるほど体調がいいと笑うほどたくましい。

「お疲れ様。珠美が残業せずに帰るなんて珍しいね」

佐都里が私の横に並び、ふたりで駅まで歩く。

「うん、仕事もひと段落ついたから、今日は早く帰ろうと思って」

「だったら、おいしいハンバーグのお店を見つけたんだけど、これから行かない?」

「あ……ごめん。今日は兄さんたちが来るからダメなんだ」

佐都里の誘いに惹かれつつも、両手を胸の前で合わせて断った。


< 10 / 21 >

この作品をシェア

pagetop