政略結婚ですが愛されています


 
入社後すぐに総務部に配属されてから、二年。私は経営企画部の事務関係の仕事と、経営企画部を担当している葉月常務の秘書的な業務を担当している。

秘書といえば聞こえはいいけれど、総務部に籍を置く、経営企画部付の事務社員と言ったほうが正しいかもしれない。

経営企画部の部内会議で議事録を作成するのも、毎月の定例の仕事だ。

そして、会議の合間に神田課長の顔を盗み見ることが、密かな楽しみとなっている。

今もそっと視線を向ければ、神田課長——私の初恋の男性は、いつもにも増して生き生きとした表情を浮かべていた。

彼の仕事への真摯な向き合い方と、野心を隠すことなく自分の意見を口にする強さに魅かれ、慕う社員は多い。

さらに女性社員の多くは彼の特別な相手になりたいと願い、その想いを積極的にぶつける様子を見かけることも少なくない。

その想いに神田課長が応えたことはないけれど、そんな態度がさらに女性からの人気を煽り、『冷たい紳士を熱く変えることができるのは誰か』と、密かにささやかれている。

「じゃ、最後に。先日、開発が終了して納品を終えた『交通系IC決済システム』だが、会社への大きな利益と社外への存在感をもたらしたということで社長賞が決まった」

艶のある声が会議室に響き、一瞬の間を置いて、ざわめきというよりも叫びに近い声があちこちから聞こえた。

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