専務に仕事をさせるには
その日どうしても社へ戻る事が出来なかった私はそのままタクシーに乗り込んだ。
「いらっしゃいませ。何になさいますか?」
「気分が晴れるお酒をお願いします」
バーテンは畏まりましたと背後の棚へと手を伸ばす。
なぜ副社長は私だと知っていて宮本に合わせたのだろ…
渉が用意してくれたバックの隠しカメラにはしっかり副社長の行動が写されていた。
まるで副社長は隠しカメラを気付いているかの様に写っていた。
自分の悪事の証拠を自分で用意したって事…
分からない…
頭を抱えていると目の前にグラスが置かれる。
「ベリーニです。お客様をイメージさせて頂きました」
ロンググラスに注がれた上品なピンクに、添えられた風車のストローがとても可愛い。
「私のイメージですか?」
「はい。美しいあなたの笑顔はとても可愛くて魅力的です」
口説かれてるみたいで嬉しくなる。流石に女性の扱いに慣れている。
1口口をつけると桃の甘さが口の中にふんわり広がり飲みやすい。
「有難うございます。気分が晴れました」と私は微笑む。
バーテンは眼鏡を中指で上げほんの少しだけ口角を上げて笑った後、私の背後へ「いらっしゃいませ」と声を掛けた。
「なに口説かれて喜んでるんだ?」
そこに現れたのは専務だった。
「えっ?どうして?」
専務はシェリートニックと注文して私の隣に座る。
「リンリンの友達が教えてくれた」と私の鞄を指差す。
え?鞄の中にはあの日渉からブランドバックと一緒に渡された盗聴器のブローチが入っていた。
あ…返すの忘れてた。
タクシーに乗り込みホテルの名前を伝えたのを渉が聞いていたのだろう。