専務に仕事をさせるには
「副社長は解任された。で、俺が副社長に就任する」
「そうですか…おめでとう御座います」
副社長が警察に行くと言っていたから、結果を聞かなくても分かっていた。
「リンリンのパソコンの件や会議に俺を欠席させ様とした事についてはあの人は関わって居なかったみたいだ。秘書の鈴木の一存だろ。中国からの荷も鈴木だったからな」
副社長が私を知っていた事を聞く限り、今更専務を会議に出るのを邪魔する必要もないからその通りだろう。
「あの人がまさか矢野さんの息子だったとはな…」
「会長が?」
「いや、リンリンの友達だよ」
「渉が?」
「ああ、よくあそこまで調べたよ」
専務の話だと、副社長は矢野さんが結婚する前に付き合っていた人の間に出来た子供で、矢野さんはその人が子供を産んだ事を知らなかったらしい。
随分経ってから人伝にその人が子供を産んだ事を知り、矢野さんは、子供の産めない奥さんの為に引き取る事は出来ないが認知だけはさせて欲しいと申し出たが、その女性に迷惑は掛けるつもりはないと断られたと言う。
多分その女性は矢野さんに内緒で子供を産むと決めた時点で矢野さんに頼るつもりはなかったのだろう。
矢野さんは奥さんに内緒で会長に相談し、会長が矢野さんの代わりに定期的に会いに行って面倒を見ていたため、副社長は会長を自分の父親だと思ったらしい。
副社長がうちの会社に入社し、矢野さんに恩のある会長は副社長にそれなりのポストを与えた。
副社長もそれに応えてきたが、結局いつまでも自分を実子と認めてもらえないという寂しさを、鈴木さんに付け込まれたらしい。
鈴木さんは宮本とも付き合っていたそうで、副社長はふたりにいい様に操られていたのかもしれない。
「爺さんやお袋が早くあの人に矢野さんの事を話していれば、こんな事にならずに済んだのにな…」
「そうですね…」
矢野さんの奥さんと幼なじみである会長も最後まで黙っていたらしいが、矢野さんの奥さんは全てを知っていた様で、矢野さんの亡くなる3日前に、会わせてあげたいと会長に連絡をよこしたと言う。
子供の産めない自分を気遣い、引き取る事を諦めた夫に知らないふりをする事で、夫の愛に応えていたのかも知れない。
矢野夫婦、副社長のお母さん、そして会長や社長も大切な人の為に隠していた事がこの悲しい結果を生んだのだろう。