専務に仕事をさせるには
駅からタクシーに乗り辿り着いた所は鄙びた温泉旅館。
本館ロビーのフロントで受付を済ませると和服を着た中居さんに荷物を預け、お部屋は別館になりますと言われ中居さんの後について行く。
綺麗に手入れされた庭園を長い渡り廊下で離れの棟まで渡り案内されたのは竹林に囲まれた部屋。
「こんな山奥までよく来て下さいました。ここは何も無い所ですけど湯はいい湯ですからゆっくり疲れを癒やして行ってください」
中居さんはお茶を煎れ茶菓子を出してくれる。
私は濡れ台に置かれた竹の座椅子に座り竹林を眺めていると中居さんはなにか私を不審がるように見ている。
「あの… お客さんはOLさんですか?」
「ええ」
「えっと… 後からどなたかおみえになるんですか?」
「いいえ」
「ぁ… お、お仕事は… お忙しいですか?」
なに? 予約も一人で入れてるんだけど?
なにを聞きたいの?
ああ、女の一人旅で急な予約だったもんね?
心配だよね?
私は、昨日室長と別れた後回れるだけのブライダル会社やホテルを回って結婚式の資料を集めて回った。
21時過ぎ、誰も残っていない専務のデスクに置いて帰って来た。
その帰り電車の中で旅サイトを見ていて急に旅行する事にしたのだ。
「この旅行、傷心旅行みたいなものですけど、自殺なんてしませんから心配しないで下さい。仕事が忙しくてなかなか休みが取れなかったんですけど急に休みが取れたから心と体の疲れを癒やしに来たんです。こちらに迷惑を掛けるような馬鹿な事は何もしませんからご心配なく」
フロントでも長期滞在と言うことで割引にするが宿泊費は前払いでと言われて宿泊費は既に収めてある。