レジーナ フィオリトゥーラ
「あなたのことだけ、夢かと思ったの!あなたは、本当はただのハリネズミだったんじゃないかって思ったの!」

ヒステリック気味に怒鳴った私をルカは、ちょっと驚いたように見つめた。

「まあ、気持ちも分かるけどね。」

私の剣幕に完全に目が覚めたルカは、立ち上がると、マントを拾い上げて、私に着せた。

「寒いから着ておけ。お前、薄着過ぎるぞ。」

ルカの自然体な優しさに触れ、なんとなく落ち着いた私は、静かに頷いた。

「ちょっと頼みがあるんだけど。」

ルカは、ぼさぼさの髪を結びなおしながら、言った。

「なあに?」

「台所から塩取ってきてくれない?お前だったら、あんまり怪しまれないだろう。」

「ルカだって、大丈夫でしょう?子供なんだし。」

「まあね。でも、頼む。」

犯罪者とかじゃないわよね。

ルカに歯切れの悪い回答に戸惑いながらも、私は、台所の方へ急いだ。

結婚式の後の城は、静まり返っていて、途中で広間を覘くと、酔っ払って寝てしまったらしき男達が、ごろごろ転がっていた。

台所を覘くと、まだ誰も来ていなかったので、ほっとした。

急いで棚に近づくと、調味料らしき入れ物を幾つか引っ張り出した。

「砂糖と塩を間違えないようにしなくちゃ。」

ありがちな間違いもルカにとっては、死活問題になりかねない。

ようやく見つけた塩の壷を抱えた時だった。

「お腹好いたあ。」

幼い子供の声に私は、驚いて振り向いた。

見ると、ドアの所に小さな男の子が立っていた。

小さい子特有の柔らかい薄茶色の髪に青い瞳持つかわいらしい少年だ。

「お腹空いた。」

男の子は、もう一度言った。

動転してしまった私は、男の子を押しのけて逃げ出そうかとも考えたけれど、やっぱり思い直した。

ここで男の子に叫ばれたら、後が大変だ。

落ち着け自分。

胸に手を置いて、一呼吸。

辺りを見回すと、流しのそばに置いてあるバスケットにスコーンのようなお菓子が、残っていた
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