レジーナ フィオリトゥーラ
「あのお、ちょっとすみません。」

思った通り、私は、不思議な言語を話すことが出来た。

「なんだい、忙しい時に。」

「ちょっと、お尋ねしたいんですが、ここは、どこで、今は、何年ですか?」

「何言ってんだい。ここは、チェルデモンネ。今は、花聖暦4000年だろう。あんた、酒を飲んだね。まったく、子供のくせにどうかしてるよ。ぼーっと突っ立っていても邪魔だから、台所を手伝いな。」

おばさんは、早口でまくし立てると、私の腕をむんずと掴んでぐいぐいと厨房へ引っ張っていった。

チェルデモンネって、どこ?

火星暦って何?

てか、カセイって火星?

「ほら、これを運びな。ちゃっちゃとしなよ。忙しいんだからね。」

厨房に着くと、大皿を手渡された。

皿の上には、香ばしい鳥のローストが、乗っている。

よほど物欲しそうな顔をしていたのだろう。

「ちょっと、あんた。つまみ食いは、いけないよ。」

おばさんにしっかり釘を刺された。

広間に戻った私は、テーブルに空いている部分を探して、ぐるりと辺りを見回した。

皿は、重いし、こんなことしている場合じゃないのに。

やっとのことで、テーブルの端にいくらかのスペースを見つけた。

狭いスペースになんとか大皿を置いて、安堵のため息をついた時だった。

「きゃあ~!」

広間に高い悲鳴が、響き渡った。

「ねずみよ。ネズミよ!」

悲鳴の聞こえた方を見ると、泣き叫んでいる女の人とその足下に小さなハリネズミが、チロチロと怯えたように這い回っていた。

すると、大男が、猟銃を片手に出てきた。

「泣くなよ。すぐに追っ払ってやるからさ。」

大男は、女の人に良いところを見せたかったのか、酔っ払って赤い顔で目の焦点が合っていないのにも関わらず、銃を構えた。

そんな酔っていたら、ハリネズミを本当に貫いてしまうかもしれない。

気が付くと、私の体は、勝手に動いて、ハリネズミに覆いかぶさっていた。

「なんだ、このガキ。」

頭の上で、男の苛立った声が、聞こえる。

「ご、ごめんなさい。これ、私のハリネズミなんです。」

私は、ハリネズミをワンピースのスカートの上に乗せると、一目散に広間を飛び出した。

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