あの頃、きみと陽だまりで



「やだっ……やだぁっ……」



とめどなく溢れる涙を拭うこともせずに、消えていく彼を繋ぎ留めようと手を伸ばす。

けれど掴むことはできなくて、新太の姿は完全に消えて行った。



『……大好きだよ、なぎさ』



波の音の中、そのひと言だけを残して。



「……う、そ……」



消えて、しまった。

待って、待ってよ、新太。

行かないで。そばにいて。同じ世界に、生きていてほしいよ。



「やだ……新太、新太ぁっ……!!」



冷たい海の中、膝をついて泣きじゃくる。



新太が私のためにくれた時間。最後は笑って過ごすべきだったのかもしれない。

笑って、気持ちよく『ありがとう』って、伝えるのが正解だったと思う。



でも、できないよ。

失う悲しみが大きすぎて、涙ばかりが込み上げる。



泣いて、泣いて、泣きじゃくって、新太との日々を思い出す。

楽しかった、温かかった日々。

全てが過去形になってしまうくらいなら、このままここに居たい。

新太の意識の中で、彼の近くに居たい。



そう強く願うのに、ここにとどまれないことも、なんとなく感じられる。



「新太……新太っ……新太ぁーっ……!!」



何度呼んでも、声は返ってこない。

『なぎさ』、そう笑ってくれる姿を頭に思い浮かべることは出来るのに、現れてなどくれない。



その時、押し寄せた大きな波が私を正面から飲み込んだ。

苦しさと涙に溺れるように波にもみくちゃにされるうちに、手からは力が抜け、キーホルダーを手放してしまった。



待って、キーホルダーが、新太からのお守りがっ……!

そう手を伸ばすけれど、再び押し寄せる波が、私からキーホルダーを奪い引き離す。



待って、待ってよ、ねぇ

行かないで





意識が遠く、なっていく。








< 125 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop