あの頃、きみと陽だまりで
「やだっ……やだぁっ……」
とめどなく溢れる涙を拭うこともせずに、消えていく彼を繋ぎ留めようと手を伸ばす。
けれど掴むことはできなくて、新太の姿は完全に消えて行った。
『……大好きだよ、なぎさ』
波の音の中、そのひと言だけを残して。
「……う、そ……」
消えて、しまった。
待って、待ってよ、新太。
行かないで。そばにいて。同じ世界に、生きていてほしいよ。
「やだ……新太、新太ぁっ……!!」
冷たい海の中、膝をついて泣きじゃくる。
新太が私のためにくれた時間。最後は笑って過ごすべきだったのかもしれない。
笑って、気持ちよく『ありがとう』って、伝えるのが正解だったと思う。
でも、できないよ。
失う悲しみが大きすぎて、涙ばかりが込み上げる。
泣いて、泣いて、泣きじゃくって、新太との日々を思い出す。
楽しかった、温かかった日々。
全てが過去形になってしまうくらいなら、このままここに居たい。
新太の意識の中で、彼の近くに居たい。
そう強く願うのに、ここにとどまれないことも、なんとなく感じられる。
「新太……新太っ……新太ぁーっ……!!」
何度呼んでも、声は返ってこない。
『なぎさ』、そう笑ってくれる姿を頭に思い浮かべることは出来るのに、現れてなどくれない。
その時、押し寄せた大きな波が私を正面から飲み込んだ。
苦しさと涙に溺れるように波にもみくちゃにされるうちに、手からは力が抜け、キーホルダーを手放してしまった。
待って、キーホルダーが、新太からのお守りがっ……!
そう手を伸ばすけれど、再び押し寄せる波が、私からキーホルダーを奪い引き離す。
待って、待ってよ、ねぇ
行かないで
意識が遠く、なっていく。