あの頃、きみと陽だまりで
「……あなた、『なぎさ』、ちゃん?」
「え……?あ、はい……深津、なぎさ、です」
「そう……あなたが、新太の言ってた」
新太が言ってた……?
それに、どうして私の名前を知って……?
その言葉の意味が分からず聞き返そうとする私に、女性はにこりと目を細めて笑うと手招いた。
「こっちにいらっしゃい、外は冷えるから」
「は……はい」
呼ばれるがまま庭のほうへと向かいながら、先を歩く女性の横顔をチラリと見た。
二重の綺麗な形をしたその目は、記憶の中の新太そっくりで、もしかして、と感じて問いかける。
「あの……もしかして、新太のお母さんですか?」
「ん?えぇ、よくわかったわね」
「は、はい……目が、似ていたので」
正直に思ったことを述べた私に、その女性……新太のお母さんは「そう?」と言いながらも、嬉しそうに笑う。
新太の、お母さん……だったんだ。
『絶縁されてる』って言っていたけど、そんなイメージがつかないほど上品そうなお母さんだ。
けどお母さんがいるってことは、やっぱり新太はこの世界に実在していた人だったんだ。
靴を脱ぎ縁側から家に上がると、変わらぬ広い和室があり、その景色が一層実感させた。
本当に、夢じゃなかった。確かにここに新太という存在がいて、トラもいた。
……じゃあ、もしかしたら。そんな一抹の期待を込めて口をひらく。