あの頃、きみと陽だまりで




その言葉に、なんとなく思う。トラは、私たちがいた世界と、こっちの現実世界を行き来していたんじゃないかって。



1週間、私たちと暮らしていたからごはんも食べていた。

けれど、私と新太の魂があるべき場所に帰ってしまってから、トラはずっと待っていたのかもしれない。

私が、またここに来ることを、信じて。



さっきも感じた『夢じゃなかった』。

早坂新太という人はここにいて、あの事故で命を落としていた、という悲しい現実。

だけど、私たちが一緒に過ごした1週間は確かにここにあった。

トラがそれを、教えてくれた。



「……あの、変な話をするかもしれないですけど、聞いてほしいです」

「え?」

「私……2週間前の事故で、新太に命を救ってもらいました。それから1週間、私と新太とトラは、この家で一緒に暮らしてたんです」



なにを言っているのかと思われるかもしれない。

憎まれるかも、冗談を言うなと怒られるかもしれない。

だけど、新太の心がここにきちんとあったこと、教えたいから。



「新太は、沢山のことを教えてくれました。いつも笑ってて、私が迷ったら、追いかけてきて手を引いてくれて、生きていく意味を、教えてくれた。新太が作ってくれるご飯も、すごくおいしかったです」



いつも、笑顔を見せていた。

弱い私と向き合って、包んでくれた。

くだらない疑問にも答えをくれて、ほしい言葉を、知らなかった感情を、沢山沢山くれたんだ。



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