あの頃、きみと陽だまりで
「私の息子は人の命を救える、立派な子だったんだって、そう思うと誇らしいの」
その言葉に込められたのは、新太のお母さんにとっての最後の希望。
新太が亡くなったことには、きっと意味がある。
失った代わりに、どこかで誰かが得たものがあるはず。
今ここにある、私の命のように。
「だから、ごめんなんて言わないで。あなたは前を向いて生きてくれなくちゃいやよ。……新太の分まで、人生を目いっぱい生きてね」
新太の、分まで。
……ねえ、新太。
新太は『もう遅い』って言っていたけど、そんなことなかったよ。
新太が消えた今でも、新太のことを思い、願う人がいる。新太のために泣く人がいる。
溝なんて、なかったよ。
新太のお母さんから感じる悲しみと、希望、言いようのない思いに涙が溢れる。
トラを抱きしめ、キーホルダーを握り締めたまま泣き出す私に、新太のお母さんは一緒に泣きながら肩をぎゅっと抱きしめてくれていた。
世界は、残酷。
敵ばかりで、救われることなんて多くない。
うまく噛み合わなかったり、伝えたいのに伝わらなかったり、こじれて、心を悩ませ締め付ける。
世界は、苦しい。難しい。
だけど、思うよ。
世界は、こんなにもあたたかい。
思い合う気持ちにあふれていて、いつだって、暗闇の先には光が差している。
新太がいたから、そう知ることができた。
ありがとう、新太
ありがとう
大好き、だよ。
波音が響く中、胸の中で彼への愛情を繰り返す。
庭には、花がひとつ、小さな芽を出していた。