あの頃、きみと陽だまりで
湘南の海の近くにある、少し古い一軒家。
俺は物心ついた頃には、ほぼ毎日その家にいた。
そこは父方の祖父の家で、早くに祖母が亡くなってから、祖父がずっとひとりで住んでいた家だ。
弁護士の父と、その事務所で働く母、という俺の両親は、共働きで忙しい人たちだった。
俺が生まれた時もじいちゃんに面倒をみてもらうつもりで、自宅よりじいちゃんの家に近い保育園に入れたのだそう。
そんな生活は小学校にあがってからも変わらず、放課後や土日など、家にひとりになってしまうときはじいちゃんの家で過ごすことが多かった。
俺にとっての親は、じいちゃんだった。
悪いことをすれば叱られ、いいことをすればほめられた。
楽しいことも悲しいことも、じいちゃんが全部教えてくれたんだ。
小学生高学年から俺はサッカーに夢中になり、毎日のように近所の友達とサッカーをしたり、地元のサッカーチームに所属するようになった。
『新太、最近じいちゃん家来る日減ったなぁ』
『うん!俺今サッカーやってるから!いつかアレックスみたいな選手になるんだー!』
『そうかそうか、じゃあもっと身長伸ばせよ』
当時身長が低いことを気にしていた俺を、じいちゃんはそう笑ってからかった。
サッカーをやっていた俺のあこがれは、ブラジル代表のアレックスだった。
世界の名だたる選手の中でも『スター』と呼ばれた選手・アレックス。
その速さ正確さを兼ね備えた足はいつもシュートを確実に狙っていて、得点王とも呼ばれていた選手だった。
いつか俺もあんな風に。そう夢を見てサッカーに励むようになった頃から、自然とじいちゃんの家に通うことが減っていった。
けれど、その道が少しずつ歪んでいったのは、中学生になってからだった。