あの頃、きみと陽だまりで



運命が変わったのは、それから3ヶ月近く経った後……12月1日だった。

毎月1日は、じいちゃんの月命日だ。その日だけは、学校があってもバイトがあっても、必ず、都内の霊園にあるじいちゃんの墓に行こうと決めていた。



それはその日も変わらず、学校を終え家に荷物を置いて……少し遅くなってしまったけれど、墓参りに行こうとした。

そうせわしなく家の中を動く俺に、トラが『一緒に行きたい』とでもいうかのように、足もとにべったりくっついて離れなかった。



『仕方ないな……たまには連れて行ってやるか』



そう俺は、病院に連れて行くときの為に買ってあった猫用のスリングにトラを入れて、バイクを走らせた。

たまにはじいちゃんもトラと会いたいかも、なんてそんな軽い気持ちで。



ところが墓参りを終えてすぐ、トラは俺の手元から逃げ出し、霊園を出て行ってしまった。



『こら、トラ!待てって……』



普段から怖がりで、自ら家の敷地の外に出ることもできないような奴だ。道路にでも出たら動けなくなってしまうかもしれない。

必死に駆け足で追いかけて行くと、そこには、トラをみつめるひとりの女の子の姿があった。



高校生くらいだろうか。青信号を渡るトラを見つめている。

今思うと、トラはこうして、俺と彼女を出会わせたかっただけなのかもしれない。



……けれど、そこにやってきたのは、猛スピードの車だった。



『危ない!!』



彼女はトラを庇おうと、躊躇うことなく車の前に飛び出した。



危ない。彼女が轢かれてしまう。

そう思った瞬間には体が動いていて、俺は、トラを抱く彼女を抱きしめた。



ライトの眩しさとけたたましいクラクションの音、それと同時にドンッ!!と鈍い音が響く。

強い衝撃とともに体は道路に投げ出され、激しい痛みを感じると同時に意識が遠のいた。




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