あの頃、きみと陽だまりで
「それに、誰かに無理矢理戻されるんじゃなくて、なぎさ自身が『帰りたい』って思うことが一番大切だと思うよ。これからを生きていくうえで、ね」
誰かに言われてとかじゃなく、大事なのは、私の自主性。
それはきっと『これから』の、ために。
だから新太は、お父さんには黙ってくれていたんだ。
……敵わないなぁ。
どれだけ私の心を見透かして、いつも一歩先を考えてくれているのだろう。
悔しいような、まいったような気持ちで、写真を指先でそっと撫でた。
「さて、そろそろ行こうか」
「……うん」
帰ろう、そう言うかのように笑って歩き出す新太に、私は続いて歩き出した。
まだすぐには、『帰りたい』とは言えない。
自宅に戻ることにも、勇気がいるから。
だけど、今まで見えなかった家族の心を知られて、よかったって、思う気持ちだけは確かだ。
……不思議。
新太の言葉が、存在が、今まで見えていなかったものばかりを見せてくれる。
一歩、また一歩と進む足は、砂浜を歩けば深く沈む。
だけど、前に向かって歩くんだ。
立ち止まることも、膝をつくことも知ってしまったけれど、あの日より大きな、この足で。