あの頃、きみと陽だまりで




「なぎさ、どうしたの?汗びっしょりだけど」



寒さの増すこの季節からは考えられないような私の汗から、なにかがあったことを察したのだろう。

でも、夢を見てうなされたなんて言いたくないし、どんな夢を見たか、言葉に表すことも嫌だ。



「……別に。なんでもない」



ぼそっと呟き、『聞かれたくない』、という気持ちを示すように目を背けると、新太はなにかを思ってか小さく笑った。



「そのまま外に出たら汗が冷えて風邪ひくから、タオルで拭いてから庭おいで」



そして汗で湿った私の頭をくしゃっとなでると、トラを連れて部屋を出る。

まるで子供をなだめるようなその手は、今日も変わらず優しい。



……普段はペラペラとうるさいくせに、こういう時は深入りしないんだ。

だけど、無神経に触れてこない、近いようできちんと距離を保った彼にほんの少し安心する。



そういう人だから、一緒に過ごしやすいのかもしれない。



ひとり納得しながら部屋を出て、洗面所に向かうと、水で顔を洗って汗を洗い流した。


タオルで顔を拭いながら庭へ向かって歩いて行くと、ふわりと香るのは、少し嗅ぎ慣れたこの家の洗剤の香りだ。

石鹸のような爽やかな香りを吸い込むと、すこしだけ呼吸が楽になった。




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