あの頃、きみと陽だまりで



「多分ほとんど2階の部屋にいると思うからさ。もし出かけるって時は声かけてね」

「なんで?」

「なんでって、いきなりいなくなってたら心配するじゃない」



さも当然、とでもいうかのようにそう自然と言い切った彼に、少し驚いてしまう。



心配、する?

私のこと、を?

……なんで、そんなこと。



「……過保護」

「あれ、俺呆れられてる?」



口から出る言葉は、なんとも愛想のないひと言だけど、本当はちょっと嬉しい。

まだ出会って4日ほどしか経っていない。そんな他人同然の私のことを、『心配』と言ってくれたことが。



その心にいる自分が、全くの他人ではないのだと、感じられた。

だけどそれを素直に表すことはできず、「ふん」とかわいげのない態度をしたところで、ちょうどラジオ体操は終わった。



「あ、そうだ!なぎさ!」

「なに?」

「おはよう!今日もよろしく!」



彼に言われてから気付く。そういえばまだ、今日は挨拶をしてなかったこと。

たったひと言のあいさつ

それもまた、こんなにも嬉しいなんて。



「……おはよ」



ほんの少しずつ、この胸に変化を感じる。そんな、この家で迎える3度目の朝。




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